映画 ガリーボーイ Mere Gully Mein(路地裏が俺の庭)に乗せて。インド映画について語りたい。

映画 ガリーボーイ(原題:Gully Boy) 感想について。

 

〇感想の前に。

最近、マーティン・スコセッシ監督やフランシス・コッポラ監督のマーベルへの意見というか、映画的価値観の訴えの様なニュースが流れましたね。その両監督を否定するようなことがマーベル大好きファンがつぶやくのと、それに対して意見する映画ファン。ネット上の言葉ってモラルがなさすぎて時に嫌なものだなぁと思ってしまいます。互いに罵らず、良い所も悪い所も評価し合うというか、映画ってもっと自由なもので、何かを表現したり、何か感情が動かされるものだと思うので、人それぞれの価値観であって、多様性のあるものだからね。誰もが好き勝手言っていいのがSNSの利点だし、見たくないなら見るんじゃないというとこですけどね。ただ、興行収入の側面や、監督の個性の側面等で、映画作品を全否定するのはなぁなんて思うわけです。見てから感想を言って欲しいし、その時代にその監督が見出した映画で、その瞬間にいた時の喜びってものがあるんだから。映画はその人の環境や心情や時代によって全然異なる価値観があるんだから。

また、映画は映画館で観るのがベストか、配信で見るのかベストか、DVDorBDで見るのかベストなんかと同じでどうてもいい。そんなの人それぞれの価値観であって、わざわざネットにつぶやくものでもなんでもない。好きなものを純粋に勧めたい。それだけでいいじゃん。

そんな思いを抱きつつも、好きなミニシアター系の映画館で本作品に出会いました。新しい映画的価値観の出会いだと思えました。映画の自由度ってきっと、こういう狙い、企み、思惑、試案といったことから、映画の新しい見え方がするんだろうなぁと感じられた良い映画です。もうインド映画として、新しい境地と新しい試みで、これからのインド映画への期待値がぐっと高くなりました。これから、具体的な感想を書いてきます。

 

〇感想を言います。

インド映画=ボリウッド。従来の歌って踊って、最後はハッピーに。インド映画のイメージは8割程度そんな感じです。しかし、本作はラップでのし上がった実話!ラップが好きな主人公ムラドは、貧困・スラム・格差社会・希望・しきたり・個性・時代というものをラップに乗せて表現します。環境によって、ラップは如何に進化し発揮するものなのかと思えましたね。日頃の自分の価値観や思いや信念というものを、ライム・バイブス・フロウ・パンチライン・アンサーに込められています。ムラドは初めてフリースタイルにおいて、言葉を返せず引き返してしまいます。ムラドは相手に対して「彼が言っていたとおりだと思う。」と真剣に受け入れてしまうのです。そこから、NASの開催時に、ムラドは自分なりのフリースタイルを考えます。言われたことを受けつつも見事にアンサーするシーンは圧巻ですよ。相手を言い任せますよ。その前までは、「前のように何も言えないぜ、あいつ。黙らしちまえ。」ぐらいなヤジをムラドは受けるわけです。そこから、見事な逆転。しかもオーディエンスは盛り上がりますよ。このシーンだけでも、インド映画の確変ですよ。今までだったら喜びの舞ぐらい、皆で踊りだすところを誰も踊らないんですから。踊らないインド映画はたくさんありますし、それぞれの呼び方も違いますけど、本作においては、歌って踊ることを否定はしていないんです。これからのインド映画としてのアンサーを示した映画なんです。ヒップホップという文化的ムーブメントが、ラップというリズミカルに言葉を発する歌唱法によって、誰の心にも、つまりインド人が抱えている気持ちを代弁し、言いたいことを言ってくれる化身となるわけです。

ラップ自体にあまり関心や知識がなくてもすんなりと、先入観なく見れる作品でもあります。男女の恋愛においても、無駄なミュージカルシーンを抜きにして、嫉妬するヒロインが他の女に殴るシーンなんて、そうそうインド映画では描くことが少ない名シーンといっても過言ではありません。デンジャラス・ビューティーなヒロインことサフィナを演じるアーリアー・パットは実に魅力的でした。監督も、ヒロインは彼女でしかありえないと断言しております。彼女は、芸能一家で育ち、ランビール・カプールとの熱愛も報じられており、実に魅惑的な女性なんです。日本人で例えると池脇千鶴的な魅力を感じられました。

まぁ、上記のように大満足的要素豊富な映画ではありますが、やや主人公ムラドのご都合主義的、ジャンプ主人公漫画的要素が多い印象は感じられてます。可愛いヒロインと楽しい親友、ラップで人生を変えた男なんて、まさに、友情・努力・勝利を物語っていますね。ラップが好きでない人にとっては、ドラマ場面においてもやや苦痛を強いられてしまいます。しかし、これがインド映画であることを忘れてはいけない。従来の様なインド映画とは違い、ラップで、ダンスやミュージカル要素を残しつつも、ドラマシーンを豊富に扱いながら、社会的側面をしっかり、わかりやすく、明確に教えてくれます。ましてや実在している人物がいるためミュージックビデオのまとめになりがちなところを、上手く映画として成り立たせているからです。だからこそ感情移入しやすい作品です。従来のインド映画はやや感情移入より感動や楽しさ、観客を喜ばせるといった点が重視されている印象です。本作のヒロインは自立精神が強い。強い女性を描いています。家系により女医を目指す彼女は、化粧したいし、自由にお酒飲んだり、友達と夜遊びにいったり、男性とも交友したいという意思があります。インドの女性社会はそれを美学とされず、従来通り、家を守り、夫の言うことはすべて聞き、子供を産むことを大事にしています。それに対して反抗するあたりは、ある意味第2の主人公であると言ってもいいです。このようなヒロインはインド映画で稀に見る存在です。ラストのシーンで化粧し、ムラドの最終審査会場に親に内緒で行くシーンは、女性たちへのエールと希望を示されています。

ラップでの仕上がる主人公、女性社会を変えるヒロイン、ボリウッドを重視しない監督という三位一体の結合によって、本作品は、インド映画として新しい側面を見出せたのだと思います。

 

〇物語について。

インドで活躍するアーティスト・Naezyの実話をもとに、スラムで生まれ育った青年がラップとの出会いによって人生を一変させる姿を描いた青春サクセスストーリー。ムンバイの貧しい家庭で生まれ育った青年ムラード。両親は彼を大学へ通わせるため一生懸命に働いているが、そんな親の思いを知る由もなく、ムラードは悪友と車上荒らしに手を染め、医者の父を持つ身分違いの彼女と内緒で付き合っている。自分の人生を半ば諦めて生きてきたムラードだったが、大学構内でフリースタイルラップのパフォーマンスをしていた学生MC Sherとの出会いをきっかけに、ラップの世界にのめり込んでいく。親からの反対や友情、恋など様々な葛藤を抱えながらも、フリースタイルラップの大会で優勝を目指すムラードだったが……。

 

〇インド映画について。

インド映画の火種と言えば「バーフバリ」。「バーフバリ」の圧倒的爽快感と、エンターテイメントの完成度は非常に高い。応援上映会は北海道でも大盛り上がり。皆が「バーフバリ」と声を出しながら応援する様は正に王を称えています。この応援上映による口コミと、映画と観客による一体感は、参加型上映として新しい側面を見出したと言えます。しかし、その映画館も今年で閉館されてしまい悲しい。少しずれましたが、インド映画がここまで認知される結果は「バーフバリ」であることは確かなわけです。

では、インド映画って具体的にどんな作品があるのだろうか?という点について少しまとめてみたいと思います。

インド映画世界興行収入歴代トップ3について。

1位「バーフバリ 王の凱旋」80億1612万ルピー

1ルピーが約2円相当なので、160億!?円とか?

2位「ダンガル きっと、つよくなる」70億2475万ルピー

3位「PK ピーケイ」61億6036万ルピー

上記の作品は日本でも有名になっていますし、評価も高い作品です。

ちなみに今年上映された「バジュランギおじさんと、小さな迷子」は60億です。

どうしてインド映画はここまで儲けているのか、それは自国映画大好き王国だからということ、映画の料金が安いことからだと思えます。インドの1年間の興行収入のランキングにおいて、インド映画がトップ10になっているわけです。日本だと、ディズニーやらマーベルやら、あるいはドラマ映画(去年のコード・ブルーとか。)がラインナップされますね。インドは1つも海外作品が上がらないんです。また、映画館の料金の相場は320円程度と言われています。地域によっては違うようですが。だからこそ、民衆の娯楽として親しまれていると考えられます。

また、インド映画は映画作品が豊富です。具体的には2016年でインド映画は1986本です。つまり世界的に見て1位。日本は4位です。一応、インド、中国、米国、日本合わせて2119本です。ほとんどがインド映画なんですね。大半は映画館で上映されない低予算作品であるため、必ずしも傑作が多いわけじゃないんです。

では、インド映画ってボリウッドだけ?

そんなわけじゃないんですね。インド映画は色々とカテゴリー分けされています。

ボリウッド

コリウッド

トリウッド

 ですね。それぞれ、違いがあり、有名な映画も違います。

ボリウッドは、今年で言うと「パッドマン 5億人の女性を救った男」ですね。他にも「きっと、うまくいく」や「命ある限り」とかも。ムンバイを拠点とするヒンディー語圏の映画産業というわけです。

では、コリウッドはというと、「ロボット」ですね。今年に「ロボット2.0」が日本でも公開されます。南インドタミル語圏の映画産業というわけです。因みに、「ロボット2.0」は約65億円(約42億ルビー超)を成し遂げ、2018年度インド映画1位です。2位は、ヒンディー語圏の「サンジュ」です。2位と8億ぐらい違う差を示している映画です。つまり、ボリウッドだけでなく、コリウッドも映画価値があるということ。インド映画はボリウッドだけじゃないぜってことなんですね。

トリウッドはというと、言わずもがな。「バーフバリ」、「マガディーラ」という作品ですね。インドのテランガーナ州のテルグ語圏です。また、「マッキー」というハエの映画もトリウッドなんです。与太話ではありますが、とあるバーで知らないおじさんと映画話になったとき、『ハエと人間の構造ってほとんど変わらない』とその人が言っていたことを急に思い出しました。

 インド映画において、「3大カーン」は抑えないといけない。

アーミル・カーン

サルマン・カーン

シャー・ルク・カーン

です。この3人を知っているだけでもインド映画の楽しみが一段階違いがあります。面白いのが、全員がカーンという名字をもち、1965年生まれであるという妙な関係性。また、ジュラシック・ワールドではイルファーン・カーンや、「インド・オブ・サ・デッド」のサイーフ・アリー・カーンなど。カーンは演技が良く、縁起のいい名字であることが言えるわけです。

では、それぞれの主演作はというと。アーミル・カーンは「きっと、うまくいく」。サルマン・カーンは「バジュランギおじさんと、小さな迷子」。シャー・ルク・カーンは「チャンナイ・エクスプレス~愛と勇気のヒーロー参上~」です。どれも面白いので一見の価値は十分にあります。

私は、断然アーミル・カーンが好きですけど。

 

〇配給会社ツインについて。

今回はどうしてもこれを言いたかった。配給会社ツイン。好きな配給会社は、ファントム・フィルム、ギャガ、日活、パルコなどなど色々ありますが、今年はこのツインが頑張っていると思っています。大手配給会社と言えば、東宝東映・松竹なわけで。大手を応援してもつまらない。このツインが今年なんで勧めたくなるかと言えば、本作「ガリー・ボーイ」を配給しているからですね。

有名どころは色々ありますけど、わかりやすいのは新感染 ファイナル・エクスプレスで、3億円超のヒットを生み出しました。

また、「バーフバリ」も配給してくれたのはツインです。

今年はというと、「バーニング劇場版」、「神と共に第一章:罪と罰」、「神と共に第二章:因と縁」、「工作 黒金星(ヴィーナス)と呼ばれた男」、「サ・クロッシングpart1、part2」、「SANJU/サンジュ」が公開されています。どれも大きくヒットしているかと言えば日本では微妙な興行収入の結果になりそうでありながらも、映画好きにはたまらないラインナップなわけです。

インド映画と香港映画を見させてくれるのは、このツインという配給会社があってこそなんですよ。

「バーフバリ」のすごさを少し語りたい。興行収入という面で語りたい。バーフバリはIMAXと、完全版と合わせて、ロングランヒットとなり、シリーズ累計24万人動員。3億3000万円の興収をあげています。

以上のことから、今後の活躍にすごい期待値が高い!!

後付けで言うと、キネマ旬報ベスト・テン「1987年、ある闘いの真実」もちろんツイン配給していますが、第8位と。映画好きが認めていることが証明されています。

映画の予告編のときに必ず配給会社は書かれていますので、今後の活躍に注目してほしい。

私は、「ザ・クロッシング」については面白い作品だと今でも思っていますけどね。

 

ガリー・ボーイの見どころって?

1.ラップ(いとうせいこう監修)

ラップが見どころって当たり前なんですけどね。いとうせいこう監修が素晴らしいですよね。R-指定とか、般若とか、すんごく有名どころでにわかの私程度じゃ語れないものがたくさんあるんですが、いとうせいこうってとこが良いんです。なんせ、日本にヒップホップカルチャーを広めたアーティストだからです。パンフレットに記載されている監修前と監修後であると、ニュアンスというか受けてからするとよりストレートに感じる言葉遣いになっていると思えます。そんないとうせいこうは、Twitterフォロワー数44.6万人、Instagramのフォロワー数40.8千人です。

サブカル系で真っ先に思いつく芸能人ランキング8位ですね。そのいとうせいこう監修であることで、この映画のラップが日本人に向けてより伝わりやすくしてくれたと考えられます。

本作のモデルこと、NaezyとDivine。今回の映画では、Naezyは音楽活動を休止していたこともあり映像では出ず。Divineは、本作の中で決勝戦の司会役で出ています。Naezyの人生に基づいた短編ドキュメンタリー映画はムンバイ国際映画祭で最優秀賞を受賞しています。

主役のランヴィール・シンは、本作の世界観にどっぷりと浸かりながら、Divineにアドバイスを行い、微調整され、ラッパーの仕草、話し方、雰囲気、表現方法を吸収し、映画で放出されています。ボリウッドでの稼ぎ頭とも言われている存在です。

本作では、「Apna Time Aayega」俺の時代は来てる

「Mere Gully Mein」路地裏が俺の庭

2つのラップが予告にも出ていますが、とてもいい。めっちゃかっこいいからね。

 

2.インドへの社会的影響

インドにはどの町にも好きなアーティストがいて、それぞれでラッパーグループができています。国中でラップが盛り上がっているため、本作のラップシーンはインド人誰もが興奮する見ごたえを得たことは間違いなし。また、ボリウッド映画とは関係なく、ラップのブームが広がっていく様が、監督自身もわくわくしています。

この作品の核は、見たらわかりますが、階級差別に対する闘いです。インドに限ったテーマではないため、共感性をうみます。そのため他国でもこの映画がヒットしています。その証拠付けとして、ユーチューブで予告を流すと1.8億回の再生がされてます。マイノリティに対す差別や抑圧といった点においては、LGBTQにもつながる1つのポイントになります。差別をなくそうとする動きは世界で起きているんだと、インドだけではないんだぞっとこの映画が証明してくれています。

 

〇まとめ

インド映画に今までにない試みを映画館で体験できたことがうれしかった。ラップの知識がなくてもその映画の雰囲気にのめりこみ、差別や格差という垣根をどんどん排除していく。映画の自由度を感じられた良作でありました。