映画 アイネクライネナハトムジーク 感想

映画 アイネクライネナハトムジーク 感想と考察について。

 

1.感想について。

 今泉力哉監督!あんた最高だよ。「愛がなんだ」も素晴らしく面白い作品でしたけど、本作はそれを超える面白さに富んでいました。傑作と言えます。「愛の語り具合」が絶妙で良いんですよね。前作は、成田凌がダサくて良かった。それに伴い、本作は三浦春馬が情けなくて良かったんです。今泉力哉監督のもっている技術と言えます。華やかな俳優を身近に感じさせてくれるんですね。だからこそ、妙な説得力となぜか納得してしまう「愛についての話」なんですよね。原作未読ですが、映画見てから原作を読むとこれまた面白い発見があってよかったです。

・因みに「愛がなんだ」は、なにがすごいのかという点について話したい。

まず原作は角田光代。一目惚れしたマモルに絶望的な片思い中のヒロイン、テルコと同じくままならない状況から抜け出せない人々を描く恋愛映画です。観客の割合は言わずもがな女性が大半、年齢層は10~20代で2人連れ。ライト層の観客が多いということ。勝手にしやがれ〉や〈南瓜とマヨネーズ〉や〈寝ても覚めても〉等の作品もライト層の集客に成功していると言えますが、「愛がなんだ」は集客に成功しまくってます。〈カメラを止めるな!〉のようにSNSを中心に口コミが広がり、4月19日に公開した時スクリーン数は72館、それが約200館と拡大し、興行収入も3億9千万円を超えています。単館映画上映で、ミニシアター系を見る割合は女性50代が多い。理由としては、「単館アート系映画館」が開業し、「ミニシアターブーム」と言われたのは1980年代です。現代より30年程度前の20代の方たちのときに起きていたこと。そのため50代が多いのです。(参照:単館・ミニシアター映画鑑賞世代は? | GEM Column)

つまり、「愛がなんだ」がすごいのは、50代層でなくライト層がミニシアターに足を運んだこと。映画鑑賞人口の割合としては、女性10代の鑑賞率が高いのです。1年に5本以上鑑賞していることが統計で出ています。つまりこの層に映画があたれば売れる方式なんです。とある統計でも、10代のSNS利用率は93.2%です。種類別で言うと、ラインが【92%】、Twitterが【70.1%】、Instagramが【35.1%】です。またSNSの一日の利用時間平均を聞いたところ、最も多い割合を占めたのは「31〜60分程度」。その一方で一日に181分以上という長時間を費やしている人も17%と少なくない結果です。このことから、10代の層に映画がヒットし、SNSでの拡散率が半端ない、影響力が強いと言えます。

とあるデータに、単館・ミニシアターで公開される映画を観たと答えた人は、全国一斉公開外国映画(アニメ)に次いで6%。1年に一本以上映画館で映画を観たと答えた人を3000~4000万人と想定し、上記の6%という数値を踏まえると、単館・ミニシアター映画鑑賞者は、約200万人前後存在すると試算されるとあります。(参照:単館・ミニシアター映画鑑賞者の規模はどれくらい? | GEM Column

それがですね、「愛がなんだ」を4月19日に公開し、5月16日時点での累計興行収入は2億3,299万3,000円、動員数は16万5,810人を突破しています。詳しい最終的な動員数は不明ですが、今年度はミニシアターでの鑑賞率は上がっていることが考えられます。

以上のことが、「愛がなんだ」はすごいぞと言いたかったことです。あと、キネマ旬報8月下旬号に「愛がなんだ」が女性観客を魅了する理由という特集(関口裕子)が面白い。

ついでに、言いたいこと。岸井ゆきのがめっちゃ可愛い!「愛がなんだ」の主人公テルコ役でありますが、テルコを好きになろうというアプローチから始めて、愛おしいと思える役作りをされています。テルコと共通しているのは、好きな物や目標に向かう熱量がある点だそうです。個人的に好きなのはポスターの絵が、すごく仲の良い2人なのに、本編では描かれていない。だからこそ映画を見終わったあとに切なさが増していいんです。因みに、岸井ゆきのが好きな恋愛映画は「エターナル・サンシャイン」です。「トゥルー・ロマンス」も好きなようです。エターナル・サンシャイン」はジム・キャリー好きとして嬉しい。

 

2.本作の物語について。

 あの時、あの場所で出会ったのが君で本当に良かった。出会いがないという全ての人へ、10年の時を超えてつながる「恋」と「出会い」の物語。フライヤーに記載されている文句です。この文言通りの物語だと思います。タイトルについてはwikiにも書かれていますが、「アイネ(ある)クライネ(小さな)ナハト(夜の)ムジーク(曲)」という意味です。

 

3.本作の長所と短所について。

〇長所

①恋愛映画の名手と言われる今泉力哉監督!第22回上海国際映画祭 コンペティション部門正式出品!!若い男女を中心に満席となる賑わいを見せた!!!

上海国際映画祭とは、1993年から行われています。日本映画は〈君と、波にのれたら〉、〈賭ケグルイ〉、〈メランコリック〉、〈夜明け〉、〈嵐電〉などが今年公開されています。評価が高い作品ばかりです。受賞歴で言えば、〈リリイ・シュシュのすべて岩井俊二監督)〉コンペティション部門にて審査員特別賞と最優秀音楽賞を受賞しています。他には、〈武士の一分(山田洋二監督)〉コンペティション部門にて最優秀音楽賞(冨田勲)を受賞です。

本作の1番の長所と言える部分です。色々な恋愛映画を着手している今泉力哉監督は、一貫して【正解のない恋のカタチ】を考察し続けています。〈こっぴどい猫〉、〈退屈な日々にさようならを〉、〈知らない、ふたり〉、〈サッドティー〉などタイトルだけ切り取ると、ネガティブな印象がありますが、どれも面白い作品かな。すべては見ていないので断言できませんが、〈こっぴどい猫〉を伊坂幸太郎(本作の原作者)が見て、監督にオファーしたとか。個人的には〈パンとバスと2度目のハツコイ〉が好きです。【正解がない恋のカタチ】が素敵な展開で描かれていて、「愛がなんだ」のような重い女性ではない分面白いです。

因みに、今泉力哉監督が選ぶ「ダメダメな人たちを愛おしむ映画」では、「バッファロー’66」、「ジョゼと虎と魚たち」、「どんてん生活」だそうで。ジョゼと虎と魚たち」は個人的に大好きな作品。池脇千鶴妻夫木聡が良い関係性で、終わり方含めて不思議な恋の行方が楽しい作品です。

 

三浦春馬多部未華子。「君に届け(2010年公開)」より9年越しの共演!

2010年の映画「君に届け」と2013年の「お~いお茶」のCM、2014年のドラマ「僕のいた時間」で共演しています。ベテランカップルといっても過言でない。本作も序盤から10年後の2人の関係性を描きます。そのため、三浦春馬が「現場で自然体でいれた。」、多部未華子は「10年付き合ったカップルの役だったので安心感があって、幸せに思う瞬間がいっぱいあってうれしかった」と言っています。

劇中でもすごく自然なカップルです。10年間付き合ったから結婚するのが普通なの?どうして私たち一緒にいるんだっけ?という台詞が印象的で、自宅に帰ってしまった彼女がいない朝に、ただの食パンをかじる姿がさみしさを強く象徴していて面白い表現でした。

 

③劇中にいる【斎藤さん】。斉藤和義が映画で魅せる語りかけるような主題歌!

本作はペデストリアンデッキが特徴的に映されています。ペデストリアンデッキは、、広場と横断歩道橋の両機能を併せ持ち、建物と接続して建設された、歩行者の通行専用の高架建築物のことを指します。原作者の伊坂幸太郎は、仙台を舞台にした作品が特徴的です。〈ゴールデンスランバー〉もそうです。このペデストリアンデッキで歌う斎藤さんが、時代に流されずあり続けるのが良い。時代に逆らわず、同じ曲を歌い、近づくの映画の主となる人物のみ。この映像と雰囲気作りは最高でした。本作を通して意外とペデストリアンデッキが好きな人が多いことがネットを通して知りましたね。面白い発見です。

斉藤和義伊坂幸太郎は良い関係性で、映画との相性もバッチリ!〈フィッシュストーリー〉、〈ゴールデンスランバー〉、〈ポテチ〉、〈アイネクライネナハトムジーク〉とで関わっています。どの作品も楽曲が良いアクセントになっており、斉藤和義の映画への楽曲提供は見事です。

 

〇短所

①展開が乏しい。

割と日常をだらだらと流れる映画でもあります。劇的な出会いがどうとか、愛とはどうとかが、ずっと繰り返されるため、恋愛映画特有の、激しい台詞のぶつかり合いや恋愛って辛いね系ではないため、見ていると飽きる人がもしかしたらいるかもしれない。自分は全然そんなことありませんが。

ただ、本作を見ていて、ラヴ・ディアスのようなロングショットが欲しいと思ってしまった。スローシネマと言われるような、あのただただ長く、全然カットが入らない映画が好き。特に恋愛モノや戦争やその時代を示す方法として、ロングショットをもっと多様してほしいと思ってしまう。また、 アルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」の冒頭のような長回しがいいんだよ。建物や人たちの服装等がその時代背景を彩り、情報量が多く、見たときに色々伝えてくれるから。

 

②ボクシングシーンは微妙。

やっぱり、「ロッキー」の「エイドリアーン」的な展開は本作で描かれるのですが、ボクシングに大切な緊迫と迫力が全然足りない。近年だと、「あゝ、荒野」のような、菅田将暉とヤン・イクチュンの白熱とした胸がハラハラするようなシーンが欲しくなります。また、「負け犬の美学」のような打たれ強さも欲しいですし、せめて「ボックス」ぐらい欲しいかな。なんか、「ポエトリーエンジェル」ぐらい微妙なボクシングです。

 

③ややご都合主義。

全体的に繋がっているものの、オムニバス形式な恋愛映画です。それぞれの恋愛が描かれていますが、それぞれ成功していて、実はリアリティに欠けてしまったと思います。映画にご都合主義がないといけないし、物語は成立しないですからね。これいったらすべての映画に言えることです。本作の短所を3つ挙げることが中々難しく、3つ目が雑な意見になりました。

 

4.本作の見に来て欲しい人たち!!

①10代女性+三浦春馬ファン!

具体的にはSNSの発信力が強いこと、また映画鑑賞率が年々上昇していることです。

映画鑑賞率とSNSについては下記のサイトで明確なデータとして表れています。(参照:第8回「映画館での映画鑑賞」に関する調査 - 調査結果 - NTTコム リサーチ)

なんと今年の映画館鑑賞におけるデータでは、女性10代における映画館鑑賞率は71.2%となり、初めて70%を超えています。他の各年代でも前回から鑑賞率を伸ばしたが、特に男性では30代、女性では40代で約10ポイント、映画館での鑑賞率を伸ばしています。

また、昨年、異例のヒットとなった「カメラを止めるな!」の口コミ効果を受け、観た映画を口コミで伝える「口コミ発信率」と、口コミを見てから映画を観に行く「口コミ接触率」を性年代別でみると、口コミ発信率は男性よりも女性、特に女性10代で最も高く、知人に伝える「リアル」な口コミ、不特定多数に共有するSNSの口コミ、いずれの割合も高い。一方、口コミ接触率は、男性20代で特に高い結果となっています。

以上のことから、10代の女性への評価が高い=映画観客動員数の上昇に繋がります。口コミ効果を合わせると、映画館で鑑賞率が低いと言われる20代の男性の集客にも繋がります。如何に、若い世代の発信力が絶大であることがわかります。

10代の好きな映画ランキングは、「恋空」が1位、「君に届け」が9位!これは、どちらも三浦春馬が主演です。10代の人気俳優ランキングにおいて、三浦春馬は6位です。三浦春馬は本作にも出演しているため、10代にヒットすることは考えられます。

 

様々なランキングにおいても三浦春馬は高い評価をもっています。

「正直一番かっこいい!20代俳優ランキング」において第3位です。

(参照:[コラム] 正直一番かっこいい!20代俳優ランキング|竹内涼真,福士蒼汰,三浦春馬|他 - gooランキング)

「最も「演技力」が高い20代俳優ランキング」において第5位です。

(参照:[コラム] 最も「演技力」が高い20代俳優ランキング|菅田将暉,神木隆之介,佐藤健|他 - gooランキング

「無精髭顔が見たい!平成生まれの若手俳優ランキング」において第2位です。

(参照:[ランキング] 無精髭顔が見たい!平成生まれの若手俳優ランキング1位から10位|神木隆之介,三浦春馬,福士蒼汰|他 - gooランキング

以上のことが好感度が高く、若い世代への評価も高いことが示されている根拠だと思えます。

他にもSNSの側面では、

三浦春馬Twitterのフォロワー数:12万9825人

三浦春馬Instagramのフォロワー数:89万8055人

三浦春馬「Fight for your heart」Music Videoでは、4,265,486 回視聴、高い評価は5万です。このように、ご本人自身SNSでの影響力が強いですね。

 

②「君に届け」「愛がなんだ」ファン!

君に届け」は、2010年に公開された作品です。東宝配給、主題歌のflumpoolの「君に届け」は紅白でも流れるほど、大ヒットした作品です。少女漫画の実写化ブームとなった時代であるともいえます。

キャッチコピーは「簡単になんて伝えられない。本当に、本当に大切な気持ちだから。」「本当に大切な想いは、ゆっくりと伝えればいい。」です。本作の「アイネクライネナハトムジーク」においても通じるキャッチコピーだと思えます。

君に届け」を鑑賞した世代はおおよそ、20後半から30歳であることが想定できます。つまり、一番映画館で鑑賞する時間とお金がある世代と言われています。この層への評価が高いことで、本作の劇場での収入は確実なものと言えます。

「愛がなんだ」については、予告編でも銘うってますが、「愛がなんだの今泉力哉監督」だからです。映画.comでは、11111人がチェックインしており、Filmarksでは、24143人が見たとしています。

「愛がなんだ」の各種映画サイトでの評価について。

映画.com ☆3.7

Filmarks  ☆3.8

ぴあ映画生活 73点

シネマトゥデイ ☆4.5

Yahoo! ☆3.45点

coco映画レビュー満足度94%

どのサイトにおいても高評価です。この「愛がなんだ」を監督した今泉力哉監督というのは、本作の価値への信頼度が高くなると言えます。

 

③ ペデストリアンデッキが好きな人。

大きな駅とかに設置されている歩行者用の空中回廊のことで、歌や祭りなどイベントが行われていることが多いです。そんな、ペデストリアンデッキが好き、萌えるという人たちがいます。具体的な割合は、いくらネットを使っても割り出せませんが、少なからずとも、いわゆる建物好きという人がいます。

本作では、ペデストリアンデッキが印象的に使われているため、この新しいジャンルと言える、「ペデストリアンデッキファン」というものがあってもいいかもしれません。

 

5.本作の評価

映画.com ☆3.7
Filmarks ☆3.8
ぴあ映画生活 62点
シネマトゥデイ ☆4.7
Yahoo! ☆3.88点
coco映画レビュー満足度88%

「愛がなんだ」と比べても、ほぼ変わらず高評価です。

 

6.本作を勧めたいポイント!

①各シーンが印象的で、色々と話したくなる、語りたくなる映画。

劇的な出会いが必要か、劇的な出会いに恋しているだけでないのか、自分の幸運に感謝できる相手で良かったなど色々な愛の価値観に関する台詞や単語が散りばめられています。オムニバス要素もあり、そこが本作の魅力の1つで、あの時言った意味はと考えると、男女の目線で全然違った価値があって面白いのです。「ラブストーリーズ コナーの涙」「ラブストーリーズ エリナーの愛情」という映画があります。ニューヨークを舞台に、女には分からない男の気持ちを描いた『コナ―の涙』、男には分からない女の秘めた想いを描いた『エリナ―の愛情』。2作を見ると面白い、男と女の視点が全然違っていい感じに語りたくなる映画です。それが、本作「アイネクライネナハトムジーク」は1本で2つの視点を味わえるからすごい。

 

②「愛がなんだ」の今泉力哉監督ではなく、「アイネクライネナハトムジーク」の今泉力哉監督。

この監督の魅力は【部屋で起こる人間ドラマを演出すること】、【感情を食事を用いて演出すること】において非常に長けていると思えます。部屋をただ映しているだけなのに、愛くるしさや切なさや憤りや希望といった様々な思いにさせてくれます。本作でも、外での演出より部屋での演出に凝っている印象を受けれます。主人公とその恋人の部屋が印象的で、恋人が家を去ってしまったとき、ただの白い皿にただの食パンを齧る主人公が殺風景なうえに寂しさが醸し出ています。その前に、彼女の食事をおいしそうに食べていて、温かい。その反面が出ていて良いシーンなんです。観葉植物に彼女がいつも水やりをしているのに、彼女がいないからなんとなく水やりをする、自炊ができずコンビニ弁当で済ますあたりに、1人だと何もできなくなっている様が哀愁漂って素晴らしかったです。一方の家族団らんでの映像では、ポトフを作っています。母親と娘の思春期特有のいざこざを終えたあとに、ポトフを出す母親。色んなものがごちゃまぜだけど、それが温かくておいしい。不思議と家族はそういう関係性を紡いで長くともにするという裏付けというか、表現力がこの監督の素敵なところなんです。

 

③ 青春映画で活躍した俳優たちが今なお色あせない魅力的な演技!

青春映画で活躍した三浦春馬多部未華子は、大人になっても長所を残していてくれてうれしいです。若い時活躍したけど、今演技やったらだめだね系俳優がいる中、しっかり残って、実績を残したからこそ、本作でも色あせない演技が出来ているからうれしかった。

 

7.まとめ

 今回は具体的にどこまで集客できるのかというポイントで細かく分析したつもりであるが、そんな分析はただの趣味であって、そんなことをしなくてもこの映画の魅力は計り知れないものがあると思います。