映画 存在のない子供たち 後世に残すべきたいせつな映画だから語りたい。

映画「存在のない子供たち」感想について。

1.感想について。

本作を見たときは、「救いがなさすぎて辛いなぁ。」と思いました。なぜなら、主人公の少年ゼインの環境がまさに生き地獄なんですね。家賃が払えず、手作りジュースを作り販売してお金を稼ぐも、貧困で困窮とした状態で、毎日ろくな飯も食べられないのです。他の子たちは、毎日スクールバスに乗って学校に通えているのに、お金がないという理由で、勉強を受けられるという当たり前になければいけないものを、正しく受けられない。また、そんな両親もゼインへのあたりが厳しく、子供が寝ている隣で性行為を毎日行われているわけです。育てることができないのに、子供を作ることに疑問と憤怒を覚えてしまいます。この状況下が辛いと思う側面で、怖いなぁと思う点もあるのですね。それは、本作の舞台はレバノンで実際に起きている問題なのですよ。貧困や困窮という環境の問題はその国では常識的な問題なわけです。常識的=当たり前の問題、そんなことが許されていいものではないのに、解決できない国の情勢。色々な社会悪、真の犯罪は「不作為」で、社会そのもの。もう放置をしてはいけない。とこの映画は訴えていると思えます。

ドキュメンタリーでなく、映画フィクションと監督自身の経験談で描いてくれたので、非常に見やすかったです。本作では、自分の誕生日も知らない、年齢すら知らない、出生届が出されておらず、身分証明書すらないという少年ゼインが、両親を訴えるという場面から始まります。序盤から、中々なスキャンダル性をもった映画の始まり方で、驚きとエンタメ性があり、難しい問題も入口が広く、自然と映画の中に入っていける構図のため良かったです。その裁判を通して、明るみになる問題が実際に本作の舞台であるレバノンで起こっている問題なわけで色々考えさせれるのが、面白みであると思えます。

昨年に「世界の果ての通学路」という映画を見てから、世界では大変な子供が多すぎる、ニュースや新聞に載っている情報より、映画というフィルターを通したことで、わかりやすく、そして教育を受けることは義務であり権利であることが強く感じられた映画です。日本では、教育を受けられていることが当たり前になっている印象があって、世界では必死に危険な通学路を通って、夢を叶えようとする奮闘に感動したことを覚えています。そのため、世界で起こっていることを目にする、映画を通して感じることが非常に為になりますし、募金だけでもして、なにかしらの形で力になろうという思考がもてるので、本作は大事にしたいと思います。

 

2.本作の物語について。

わずか12歳で、裁判を起こしたゼイン。訴えた相手は、自分の両親だ。裁判長から、「何の罪で?」と聞かれたゼインは、まっすぐ前を見つめて「僕を産んだ罪」と答えた。中東の貧民窟に生まれたゼインは、両親が出生届を出さなかったために、自分の誕生日も知らないし、法的には社会に存在すらしていない。学校へ通うこともなく、兄妹たちと路上で物を売るなど、朝から晩まで両親に劣悪な労働を強いられていた。唯一の支えだった大切な妹が11歳で強制結婚させられ、怒りと悲しみから家を飛び出したゼインを待っていたのは、さらに過酷な“現実”だった。果たしてゼインの未来は―。(ホームページ参照)

 

3.本作の長所と短所について。

〇長所

①前代未聞の裁判、新進気鋭のナディーン・ラバキーが挑んだ映画!

主人公の少年は12歳で両親に裁判をかけます。その理由や社会背景や国自体が抱えている大きな問題へと明るみになるのが、本作の面白くて、今までに類を見ない問いかけが隠されています。ゼインにとって両親は憎むべき存在であるはず、裁判では両親が「そうせざるを得ない」事情を訴え、ゼインを追い詰めたのは誰なのか、複雑な問題が浮き彫りになっていく。この流れが絶妙なんですね。

監督の名前はあまり有名ではありません。そんな、ナディーン・ラバキー監督は、「Where Do We Go Now?」という作品で、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で上映し、トロント国際映画祭観客賞、サンセバスチャン映画祭観客賞を受賞しています。

本作に臨むにあたり、3年間の取材を経て、「貧困」と「移民」を問うた本作は、私たちが見ているニュースの向こうの世界を体験させてくれます。

②少年ゼインの演技力と説得力が強い!

少年ゼインの目がすごい死んでいるのです。まるで、政治の社会で汚い大人を見るような魚の死んだような目をしているのが印象的です。なんと、本作のほとんどの役者たちは素人なんですね。しかも、ゼインくんは、4歳の時にシリアからレバノンに移住し、貧困地域で暮らしていました。両親に愛されていますが栄養不足で、12歳だったんですけど体は7歳児ぐらいで。教育を受け入れられず、デリバリーなどの仕事もしながら家計を支えていました。ストリートで育った彼は強く、聡明で、早く大人にならなければならなかった。そんな彼のパーソナリティをより強調するようなかたちで本作の演出に活かされています。だから、本作のテーマである「貧困」と「移民」を強くしているのです。

③「貧困」や「移民」といテーマにおいて、隠された生命力!

少年ゼインは妹が初潮を迎え、家賃の支払いのため売られてしまう。そんな事態に憤慨しとうとう家出をします。バスに乗ると、スパイダーマンのコスチュームを着た老人がいます。老人はゴキブリマンと名乗ります。老人がバスを降りたあとをついていく、そこには遊園地があります。ここがすごいんです。カラフルな遊園地なのに、楽しみ方が全然わからないので、表情はいたって変わらないのです。観覧車に乗りみせた表情は冷徹で、憂いを帯びています。私的解釈では、ゴキブリマンというのは、生きることのしぶとさを示していると思います。ゴキブリの生命力はすさまじいです。少年ゼインにとっては、生きていても、あのゴキブリマンのようにずっと生活を強いられるという背景を示しているのだと思えます。それでも、生きていくしかないという、生命力を感じましたね。

 

〇短所

1 貧困すぎて見るのがつらい!

いやぁ、見ていて不快な気持ちにもなると思います。それぐらい、子供たちや大人たちの悲惨さがあります。序盤には、適当な処方箋を薬屋へもっていき、薬をもらいます。薬をつぶして、衣類に漬けます。次に、刑務所内で渡して稼ぎます。こんなことを子供にさせるのがなんともまぁ胸糞悪いわけです。家出先で、出会った女性とその子供と一緒に暮らす展開があります。女性は移民のため捕まり、少年ゼインはその子供と一緒に暮らすことになったときにも、偽りの処方箋で薬をもらい、つぶして海水で溶かしたものをペットボトルに入れて売ります。まぁ、見ていて辛いわけですね。

2 救いが無さすぎる

レバノン自体が、100万人の移民が入ってきているわけです。皆が必死に生きています。子供たちは、学校にいけず、出生届も出されずね。移民の刑務所が、詰めるだけ、詰めていて、子供と引き離されるし、子供は売られるし、本当にニュースの先に見えた世界の情勢は救いがなさすぎると痛感する場面が豊富ですね。

③ 幼女を妊娠させるという残虐性!

少年ゼインの両親は、アサドという人物に家を借りています。アサドはアサド政権をもじったのかわかりませんが、そのまま嫌な奴なんです。本人とは関係はないのですが、アサドはロリコンなんです。ゼインの妹をいやらしい目でみて、初潮を迎えると嫁にしたいことを言い始めます。嫁にすれば、家賃はどうにかしてあげるというスタンスなので最悪。そんな、ロリコン野郎が、その後妊娠させてしまい、その影響で死んでしまいます。これは吐き気しましたね。

 

4.本作の見てきて欲しい人たち!!

是枝裕和作品ファン!

根拠としては、万引き家族「誰も知らない」に非常に共通点が豊富なんです。是枝作品ファンは見ると、理解してくれることだと思えます。「貧困」や「家族」というテーマ性や、社会の裏側の様子を映画に出してくる点、終わり方についてもなんとも言えない余韻を残す感じなどなど、確かな共通点がみられています。

ちなみに、「万引き家族」において、COCO映画レビュー満足度93%、映画.comでは☆3.8、Filmarksにおいては、☆4.0です。またコメントでは、「生々しさがある。や、血のつながり云々ではなく、家族だと思えるのなら家族という印象」などのコメントがみられています。「誰も知らない」は、COCO映画レビューで満足度93%、映画.comでは☆3.8、Filmarksでは☆3.8と、比べても同様の評価を得られていることがわかります。

また、是枝裕和監督のTwitterのフォロワーは11万人、映画「万引き家族」のフォロワー8076人です。さらに、ロッテントマト(米レビューサイト)では、99%の満足度。Filmarksでは78551人が観た、映画.comでは、27403人がチェックしています。つまり、こういう方たちが対象として、本作を見ると、本作の深さが広がると思います。

②ナディーン・ラバキー監督ファン!

本作は、第91回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、第71回カンヌ国際映画祭 審査員賞受賞!しています。

ちなみに、本作の評価は、COCO映画レビュー満足度100%、映画.com☆4.3、Filmarks☆4.3と高評価ですね。

今まで5本の作品を作り上げた監督です。2007年に公開した「キャラメル」は、Filmarksでは☆3.7、見た人は484人です。2011年に公開した「Where Do We Go Now?」では、Filmarksでは☆4.1、見た人は52人となっています。明らかに人数は少ないですが、評価はいたって高く、満足度が高いことがわかります。ましてや、本作の受賞やノミネートされているところから、ナディーン・ラバキー監督は実力の根拠を示していると言えます。

本作もまたレバノンという地で映画は描かれていますが、監督自身はレバノンで生まれ育ち、内線真っただ中を生きていた人物です。だからこそ、本作の映像や台詞に説得力が見られるといえます。

24時間テレビが好きな人たち!

24時間テレビTwitterフォロワー数は15.2万人。Instagramではフォロワー39.7千人です。また、今年の24時間テレビをリアルタイムで視聴した人は日本全国で約8,367万人です。おおよそ嵐のファンだからといった印象を感じますが、募金総額は約6億8千万でしたね。あまり正しい根拠づけではないのですが、こういう方たちが、本作を見ると胸が締め付けられて、関心をより強め、こういう系統の映画が好きな割合が増えると思うのです。

 

5.本作の評価

Filmarks 初日満足度ランキング1位(7月22日調べ)

これ以外何も言うことはないぜって感じです。

 

6.本作を勧めたいポイント!

①ゼインの目に注目して欲しい!

冒頭の裁判では、決意をした目で裁判官に話し、哀れみの目と怒りの目で両親をみます。雇われ先では、やや反抗的な目、妹たちの世話をするときは、優しさと責任感をもった目でみています。この微妙な違い。一貫として、希望のない目をしていますが、それぞれで微妙に違う感じがしました。

②ゼインの叫びの過程に注目して欲しい!

裁判から徐々に、ゼインの生きている環境が映し出されます。家族や社会、学校や労働から明るみになる「貧困」と「移民」。日々の生活から、沸々と煮えたぎる思いを、両親に訴えると、「お前なんかとっととでてけ。」と言われる始末。こんな苦悩をぜひ劇場で見てほしい。

③ゼインの最後に注目して欲しい!

最後に写真を撮るシーンがあり、そこで笑うゼインに感動しました。そのゼインの表情は、少しでも救いとなるシーン、彼自身の生き方を変えることができる瞬間なんだと思えます。

 

7.まとめ

ドキュメンタリーチックでありながら、人間ドラマをしっかり描くあたりが、是枝監督作品が好きな自分としては、ビビッと感じる何かがあったと思います。ナディーン・ラバキー監督をこれからも応援したいと思います。