映画 アルキメデスの大戦 感想

〇映画 アルキメデスの大戦 感想と考察。

1.初めに見た感想。

 やっぱり、菅田将暉がカッコイイんですね。軍服姿もさることながら、演技力も申し分なし。流石です。冒頭からまず見入りましたね。戦艦大和の沈没を5分かけて丁寧に描いてくれています。ハリウッドにも負けない映像です。一部描写がきついところありますが、監督のこだわりが光る、戦争の悲惨さを伝える意味では重要ですね。

 観客の人たちは、大体50代から60代男性、20代から30代の男性ですね。時々カップルもいましたけど、ぜひ女性にもこの菅田将暉のカッコよさを劇場で確認していただきたいところです。

 菅田将暉が演じる、櫂直(カイ タダシ)という人物がぴったりなんです。

 名言は

美しいものを見ると計らずにいられないタチなのだ。

  「君は、この戦艦を計りたいとは思わないのか。

   「数字は嘘をつかない。数字こそが正義だ。」です。

 それを話す菅田将暉の『熱量』が詰まっていること。菅田ファンには堪らんです。

 また、夏といえば、海やスイカなど連想しますが、大事なのは原爆の日終戦記念日であることです。日本人として、一瞬でも戦争について考える日はあってもいいかもしれません。しかし、本作品は反戦映画として描きながらも、エンターテイメントが充実していますので、涼しい映画館で時を過ごすのも一興かと。

 今しか見れない作品でありながら、今だからこそ見る価値のある映画です。

 ちょっと熱くなってきましたが、少しずつ紐解いていきます。

 

2.物語について(序盤)

 この映画は、数学で戦争を止めようとした男の話です。時代は1930年代、日露戦争に勝利し、満州国設立し、中国への進出に伴い、米国との対立を強め、軍拡路線を辿り始めます。その最中に、海軍では秘密裏に超大型戦艦建造(後に大和と命名)計画が動いていました。しかし、海軍では山本五十六(演:舘ひろし)と永野修身(演:國村隼)と藤岡喜男(演:山崎一)率いる空母派と、嶋田繁太郎(演:橋爪功)と平山忠道(演:田中泯)率いる戦艦派にて会議はもめていた。空母の建造費の見積もり「藤岡案」が、9300万円(現在だと1700億円)で、戦艦の建造費の見積もり「平山案」が8900万円(現在だと1600億円)であると。この双方の案に対して、大角大臣(演:小林克也)は、建造費の差が決定打となると話す。

 しかし、平山案の戦艦は、藤岡案の空母より、全幅は倍近い大きさ、砲台などの重装備、排水量も倍となるのに、安い理由がどうしてあるのか、山本五十六は気になります。建造費の問題にカラクリがあると見なされる中、会議は2週間後に行われることになります。

 その会議を終えた、空母派は築地の料亭で英気を養います。永野が料亭の女将(演:角替和枝)に芸者をお願いすると、全員帝大の学生に出払っていると。山本が様子を見にいくと、櫂直(演:菅田将暉)が芸者遊びをしていた。

 芸者の遊びの中で、投扇興(桐箱の台座上に立てられた「蝶」と呼ばれる的へ扇子を投擲して、落ちた時の形により得点を算出し競うゲーム)を巻き尺を用いて、正確に落とせるように計算してみます。その姿を見て、使える人材だと判断し、人心掌握に長けている山本は櫂を海軍へ招こうと考えます。

 櫂は平山案の建造費に隠されたカラクリを見破り、数字で戦争を止めることができるのか?

 

 ここまでが導入部ですね。正に堅苦しそうな展開。見ているだけで、肩が凝りそうな展開ですね。そうなんです。菅田将暉が出るまで割と、ベテランのおじさん達の会議シーンなんですね。演じている役者勢が素晴らしいから、割とあっさりと見れます。

 特に、戦艦の模型が登場して、嶋田と大角が「この角度から見ると堪りませんなぁ。」など少年心を取り戻したかのうように、食いついてます。軍人の会議なのに、全然軽いタッチなので見やすいんですね。男ならだれでも、大和の模型は食いつくはずですけどね(笑)

 

3.原作について。

 物語はこれからまだまだ続きます。しかし、原作を辿るともっと面白い発見があるので、一度原作について語ります。

 原作は、三田則房(みた のりふさ)です。ドラゴン桜で有名ですね。他にも、インベクターZやマネーの拳や砂の栄冠など面白い作品が豊富です。

 本作を思いついたのは、「新国立競技場の問題」がきっかけだそうです。当初総工費は1300億円だったのが、3000億円にまで膨らみ、国立競技場はいるのか、いらないのかと問題になりましたね。この時点で、史実をもとに大和の建造でも似たような問題があったと気づき本作を描いたんです。

 作者の考えでは、大和が日本に必要か、必要ではないか。という様な視点ではなく、造りたいか、造りたくないか、造れるのか、造れないのかが問題だと言います。国立競技場に置き換えると、必要か、必要じゃないかという議論は、どこかへいき、造りたい人と、やめろという人の、ぶつかり合いになっていると述べています。

 アルキメデスの大戦を見ることで、現代社会にも反英していると思うと、違った一面で映画も楽しめるというものです。

 

4.キャストと登場人物について。

菅田将暉 (櫂直)

 2013年に映画「共食い」で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。

 2017年に映画「あゝ、荒野 前編」日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞

今の日本映画界にとって重宝されるカメレオン俳優ですね。最近だと、「3年A組 -今から皆さんは、人質です-」で教師役を熱烈に演じてくれています。本当にカッコイイ!!

 彼が演じる櫂直は、帝大数学科のエリート。西の湯川秀樹(日本人初めてノーベル賞受賞されたすごい方)に対して東の櫂直と言われるほどのエリート。巻き尺で目に付いたものは計らずには入られない性格。物や奇麗な物は、数字で表したくなる性分。

 尾崎鏡子(演:浜辺美波)とは心が通じ合った仲であるが、父親である尾崎留吉に目をつけられ、帝大を辞めさせられ、アメリカの大学へ行こうとしたときに山本の誘いにて、数学で戦争を止めようと決心し、海軍へ入ることになります。

・補足:小説版では、母の使用していた巻き尺で父と一緒に色々なものを計る「計測の旅」をしています。漫画版では、父から5歳のときにもらった巻き尺を使用しています。

菅田将暉と櫂の共通点とは?

 菅田はもともと数学が好きで、数学の教師にもなりたいという気持ちがあったそうです。演技を続けていくうちに、気持ちの変化をメモをとりグラフで表すなど、ロジカル的でもあります。そのため、終盤での黒板芸(ひたすら数式で建造費を割り出すシーン)は圧巻です。黒板にまっすぐな線を書くことが難しかったと。今までは、精神的な限界、肉体的な限界はあったが、初めて頭が痛くなったと。ヘッドスパに通い詰めた話もあります。数式の覚えるときには、運動しながら、お菓子を食べながら覚えたそうです。本当に努力家ですね。素晴らしい!!

 因みに、数学監修に横浜国大の教員が参加しています。その3人が、菅田さんはちゃんと数式の意味を理解して解いているからすごい。とお墨付きです。

 

舘ひろし (山本五十六

 私的には完全に「あぶない刑事」ですよね。

 チャーミングで。ダンディな、素敵なおじさんと言えば舘ひろしですよ。

 最近では「終わった人」でモントリオール世界映画祭で、最優秀男優賞を獲得しましたね。前回とったのは「鉄道員」の高倉健以来ですから、すごい賞なんですよ。

 山本五十六については、神格化されている印象です。今まで演じてきた俳優たちも、三船敏郎役所広司、大河内 傳次郎(流石に古いですよね。バンツマとか流行っていた時代です。)という大御所です。どの俳優も、重厚で硬い山本を演じてます。歴史上では、非戦派であり、いち早く航空戦になることも考えている方でした。短期決戦、早期講和の理念のもと戦争で活躍した人物ですね。

舘ひろしと山本の共通点とは?

 山本は、宴会で逆立ちや皿回しが得意で周りを喜ばせていた方です。好物は水まんじゅう(正しくは酒まんじゅう)で、コーヒーにも砂糖を大量に入れるぐらいの甘党です。お酒は下戸でまったく飲めず、間違えないように必ずお茶を飲んでいたなどなど諸説あります。その中で唯一の共通点があるんです。それは、プレイボーイで茶目っ気がある方なんですね。本作では、今までで一番人間らしい山本が見れますよ。

 舘自身も、父親が海軍軍医であったことから、いつか海軍士官を演じた気持ちがあり、本作品に臨みました。太平洋戦争などを中心に、戦争から学ぶことが多いと資料をたくさん読んでいます。山本への理解についても、おしゃれなおじさんであることを意識し、逆立ちをするシーンは監督に提案し採用されたとか。

 逆立ちのシーンですごいのが、山本は戦争で左手人指し指と中指がないのであるが、上手くCGで消しているんですね。逆立ちはワイヤーで引っ張っているんです。そこまで身体を張らなくてもいいのでは?舘の役者魂の一片を見せていただきましたね。

 しかし、下戸なのに普通にお酒を飲むのは微妙に受けつけられなかったかな。

 因みに、別の映画で山本を演じる役所広司が、水まんじゅうを食べるシーンは豪快でしたね。

 

浜辺美波 (尾崎鏡子)

 「君の膵臓を食べたい」で一躍有名になりましたね。あの映画は泣く要素(不治の病など)が多くてずるいです。ずっと泣いてしまう。名作ですね。

 あとは、「となりの怪物くん」、「賭ケグルイ」、「センセイ君主」に出演し、深夜ラジオ「真夜中のシンデレラ」でパーソナリティーもしており、著しい活躍を見せる今をときめく女優さんです。

 本作は、櫂が家庭教師で恋仲となる関係性です。美しさの理由が気になる櫂に鏡子は身を捧げるように顔を巻き尺で測定されます。そこにはなんと、白銀比が隠されているのです。白銀比とは大和比と言われています。キティちゃんやドラえもんにも用いられており、つまりは浜辺美波も美しいと言えるのですね。

 この顔を巻き尺で測定していただけで、不埒な関係であると父親にとがめられてしまい、正に、ロミオとジュリエットのような(飛躍しすぎましたね)立場となります。

・尾崎鏡子の役割について。

 彼女がいることが、アメリカへ行くことを断念することに繋がります。大事な人が戦争に巻き込まれるのは御免被るわけで、彼女がいることで櫂が成り立つ一面でもあるんです。また、令嬢の割に堂々とされており、終盤の展開で、大阪に大里社長(演:笑福亭鶴瓶)のもとへ父親に内緒で行くんです。もちろん、櫂を助けるためにですね。

 櫂のことを終始「先生」と呼ぶ姿は、「センセイ君主」というよりも、「先生!、、、好きになってもいいですか?」の広瀬すずのような可憐さを彷彿させてくれましたよ。この可愛さはぜひ劇場でしか感じられません。漫画と違い、役割が少し異なり、出番も多めです。

 

〇笑福亭 鶴瓶 (大里社長)

 「おとうと」や「後妻業の女」など何をやっても安定した存在感です。

 本作の大里の絵は、鶴瓶そのまんまなんです。原作者が本人をモデルにしており、映画に出てほしいことも希望されていました。また造船所の名前が鶴瓶造船所。鶴瓶は原作を見ると「これ僕やんか!」と言い、優しく参加してくています。

・大里社長の役割について。

 大里は、尾崎留吉(演:矢島健一)の元で働いていたが、意見を申しただけで首となりかわいそうな役どころです。大里は、その後大阪で造船所を経営しており、櫂と田中が造船にかかる経費の台帳をみせてもらうために重要な役割を担います。

 

橋爪功 (嶋田繁太郎

 「家族はつらいよ」シリーズで良いおじいちゃんの役しているんです。小生意気なおじいちゃんが愛らしくて好きです。

 本作出演の経緯が、行きつけの小料理屋で、山崎監督とよく会うそうなんです。そこで、出演依頼をし、前作「DESTINY 鎌倉ものがたり」では通行人を演じることに。本作では、嫌な奴を希望されると、嶋ハン(嶋田の愛称)役になったんです。史実だと教養があまりなく、最後はA級戦犯となる方ですね。

 作中では、会議でもやぁやぁとやかましくかき回す感じで、嫌みな上官を上手く演じてくれています。

 

國村隼 (永野修身

 この俳優が出れば画面が締まります。

 阪本順治崔洋一の常連です。

 本作では、永野は会議のシーンにて空母を推進するためにいますね。監督の意図に沿うように「ガハハ系!」な感じ、豪快な演技をされているのが印象的です。

 史実によれば、大の親米派で、駐米勤務時代には「軍人でなければ、(アメリカに)住み続けたい」と話していたとか。

 

小林克也 (大角岑生)

 小林といえば「スネークマンショー」のイメージが強い。いや強すぎるかもしれません。本人は真珠湾攻撃の前に生まれており、家族の話や親戚が経験したことを頭の中で描き、自然に入れたと話しています。

 大角はどちらかと言えば戦艦派。聡明で壮大な大和の模型を目の前にして、「こういうのを待っていたんだよ。」と言うぐらい。裏では、嶋田と共謀しており、次の会議では大和建造はほぼ決定という事態を引き起こす。

 

田中泯 (平山忠道)

 ここまで渋い演技ができるのは流石ですね。

 例で出すのは申し訳ない。他にもっといい役をしているのですが、「るろうに剣心」において翁役でけっこう激しいアクションをしているのが印象的です。

 本作では寡黙で静観としていますが、ここぞと話すときには、主人公の櫂に匹敵するほどの説得力と言葉の重みがあります。眼鏡が光る演出をされていますが、そこはいらないなぁと思いましたけど。

 モデルは、大和建造の平賀譲です。努力型で、堅実な英国流の伝統を身につけたかたくななまでの確実、慎重派で保守的、最新の技術には慎重姿勢な人物です。

 物語が最後に向かうところで、櫂との論争は実質平山の勝ちだと思います。正義感の考え方が櫂より1つ超えていた。

 

柄本佑 (田中正二郎)

 映画大好きな柄本佑ですね。見たら喫茶店に入りメモするとか。とんでもない量を見ていて、元は映画監督を目指していたとか。今後映画監督をするのであればぜひ見てみたいと思うものです。

 田中は少尉。櫂は一気に少佐となるため、急に言葉遣いを直すあたりが軍人らしい。物語の初めでは、嫌々な感じとイラつきが少し見える演技をしながら、徐々に櫂のカリスマ性に惹かれていく。作中において、横須賀湾で長門に乗船したい櫂の訴えに、「無茶苦茶なことを次々と言わんでください。」と言うが、永野のおかげで乗船は可能となったときに櫂から「最初からできないと決めてかかのが君の悪い癖だ。」とまで言われてしまう。よくこんな変人に尽くせましたよね。仕事だから仕方ないけれど。長門に乗船後も振り回せられますが、軍機の閲覧が禁止され、何もないなか、戦艦を巻き尺で計り始める櫂に徐々に信頼を寄せるようになります。

 この2人の信頼関係は、監督はシャーロック・ホームズとワトソンみたいな関係と言っています。私的にはガリレオみたいだなぁと思いましたけど。

 特に2人の関係が良くなるシーンとして、櫂の姿勢に感銘を受けた後、夕食を櫂に届け、藤岡に空母の資料を依頼したら、面子の問題で櫂に提供してくれなかった。男って醜いものですね。櫂は「自分1人で建造費を割り出すことを決めたぞ。今夜は徹夜だ。」と言うときに、田中は「お供します。」と早速取り掛かろうとすると、「まずは飯を食べろ。」と言われる。実はアドリブなんですね。いい感じでした。好きなシーンです。

 柄本は、本作に臨む前に、江田島にある旧海軍兵学校に1日体験入隊されています。そこで、敬礼の仕方、歩き方、扉の開け閉め方まで、一連の所作を学び、精神論についてまで勉強しています。田中少尉あっての櫂と言えるほど素晴らしい演技でした。

 

5.監督は山崎貴

 代表作は「永遠の0」「Always三丁目の夕日」シリーズですね。

 演出は正直微妙な点が多い気もしますが、VFXの先駆者と言って過言ではない存在です。彼のおかげで、映画の世界の幅が広がっているとも言えます。

 個人的には「寄生獣」、「寄生獣完結編」、「海賊とよばれた男」が好きです。

 「永遠の0」に関しては、2014年の年間邦画興行収入No.1ですよ。それは映画業界に貢献してますし、大ヒットメーカーと呼ばれます。そして、本作で映画は15本目。

 「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」や「ルパン三世 THE FIRST」も作っていますし、仕事しすぎですね。

 本作品の意気込みとしては、いつか大和を作りたいという思いと、幼少期に大和が沈没することの切なさを感じていた様子です。ただの第二次世界大戦を描くのではなく、他に方法ないかと検討していたところ、原作に出会い、映画化を希望されました。

・監督の意図した点

 反戦映画は、戦争の悲惨さを描いて見せることが王道だと思うし、それに当てはまるのが「永遠の0」。今回は違ったアプローチにして、エンターテイメントとして面白みを感じさせながら、戦争について少しでも考えてもらおうとしたと話しています。

 最初に惜しげもなく大和を見たあとに、壮絶なラストの会議シーンまで飽きることなく見ることができました。監督はもっと戦争映画を描きたいのかなぁと感じます。むしろ、思いっきり描いたのも見てみたいですね。いつも原作に引っ張られ、脚本の演出に難がみられ、演出が微妙みたいな側面をぜひ解消してほしいです。まぁ、シン・ゴジラの樋口監督しかずですが…

 

6.物語について(中盤)

 大和の建造費に莫大な税金が使用される、つまりドブに捨てようとしていることを櫂は美しくない、ましてやアメリカとの戦争に発展してしまうなんてという思いから、大和の建造を中止させ、戦争を止めようと動きます。藤岡が記憶に残した大和の資料はほみとんど使えない資料で、本物は軍機に属するため簡単に閲覧できない状況です。田中と相談しても軍機は絶対に見れない。直接資料室にいっても追い出されてしまいます。

 櫂がまず考えたのは、軍艦長門をみて触れて感じ取るところから始めようとします。長門に乗り、できることは少ないけど、ボトルの数、チェーンの長さから巻き尺で測定していきます。意味がないことを田中が指摘すると、「意味がないかどうかはやってみてから判断する。滑稽に見えるだろうが、今できることをやるんだ。この軍艦を数字で表したい。」と言います。どうにか計測を終えて、長門の図面から大和の図面を割り出す作業に入ります。

 しかし、追い打ちをかけるように、尾崎令嬢との密通があったという事実無根の噂も広げられ、櫂は腹を立てます。軍の上層部がそんな嫌がらせをすること事態にいら立ちを隠せません。この一件で、海軍ではだれにも頼ることはできず、結果孤立してしまいます。

 

 中盤のシーンは、田中との掛け合いが絶妙です。徐々に信頼関係が築きあげるところ、櫂の「軍艦とはきれなものだな。」と言い、軍艦に関心を示し、計りたくてうずうずするところもいいです。櫂の愚直さや小さなことをコツコツと積み上げていく姿勢には誰もが惹かれること間違いないです。

 製図している櫂が、少し笑うところ!ここ重要です。終盤に、櫂自身も気づかなかったある思いが目覚め始めるのです。

 一方で、軍上層部の嫌がらせや同調圧力が現在日本の政治を示しています。トップに立つ人が、足の引きずりあいをする様はみっともないですね。

 

7.物語について(終盤)

 大和の図面は完成しますが、それにしても、人件費や正確な建造費についての台帳がないと正確に割り出すには困難です。田中が軍艦などを作る場合は民間会社に支えられているため、民間会社に尋ねることを提案します。しかし、すでに軍上層部からの圧力がかかり、東京ではだれも相手にしてくない状況です。

 苦肉の策ですが、尾崎鏡子と再会します。尾崎からは、先生に迷惑をかけてしまった罪悪感に駆られていますが、櫂は相変わらず美しいと感じています。尾崎の計らいで大阪にいる大里社長を訪ねます。大里社長は初めは、軍の圧力がかかることを懸念されて、門前払いでしたが、鏡子が直接大里を訪問し、直談判されて台帳をみることができるのです。その中またしても、軍の上層部により、予定会議を翌日に変更されてしまい、一刻の猶予も許されない状況となります。しかし、櫂は冷静で頭の中をフル回転させており、鉄の総量から建造費を割り出す方程式が浮かびます。

 東京に戻り、無事会議に参加できます。計算がまだ終わっていない。ずっと、算盤をパチパチする田中に対して、櫂は暗算で解いていきます。平山は、何かあるといけないと慎重に判断し、会議を早く終わらせるように嶋田に言います。すでに、大角との打ち合わせで戦艦建造で決まっていますが、どうにか足掻こうとする空母派。会議では、空母派の藤岡案は200万減らし、9100万で建造できることを言いますが、それでも平山案に及びません。会議が終わりに差し掛かると同時に、櫂が制止させ、先ほどの方程式を披露します。そして、大和の本当の建造費は1億7564万円とわかります。明らかに民間会社との癒着、抱き合わせ商法が疑われます。

 これで終わった。櫂は数字は正義だと感じますが、平山は民間会社との癒着をあっさりと認めます。そこで、「その真実に意味はない。」、「一面的な正義感だけでは語れない。」、「世の中における真実の正義は別にあるのだ。」と言われ櫂はただ聞くことしかできない。真実の正義には「戦艦建造計画を他国に知られることで、他国が予測して凌駕する戦艦を作る可能性がある。建造予算は国会の予算会議の場で必ず公開する必要がある。敵をだます前にまず味方からだ。」ということでした。

 こうして櫂が負けたように見えますが、大和の図面に違和感を、美しくない部分を感じ取ります。それは気候の条件に沿えば沈没する可能性が高いと。櫂の図面ではそこまで想定していたのです。平山は設計者として負けを認め建造を撤回します。櫂は腑に落ちない。数学で戦争を止めることができたのに、自分の中でなにかが納得できていない。

 日が流れ、平山に呼び出された櫂。平山は、「日本はロシアとの戦争の勝利に酔いしれており、戦争を止めようとする人がいないだろう。戦争を続け、国がなくなる前に、大和という日本を象徴した、希望の軍艦が沈没すれば絶望し、戦争を諦めるだろうと。」そこまで予測していたのです。そして、同じ図面を作った櫂に、「君自身、この大和を見てみたいだろう。造りたいはずだ。」と言います。櫂に自然と湧き上がっていた造りたいという気持ちが動かされ、方程式を平山に渡します。

 

 最後に、大和が建造され、山本五十六司令官が海兵に敬礼します。その中に櫂はいるのです。櫂は大和が発進する様をみて涙を流し、映画の幕は閉じます。

 

 以上が本作品の全体の流れです。壮大ですね。文字に起こすとこんなにあるのかと。これでも一応省いたつもりではいたのですが。長たらしくてすみません。

 櫂が負けたという話でなく、櫂の心情が変わったのが素敵な終わり方です。実際に大和は建造されたのですから、櫂のいないところで建造されましたなんて件は最悪ですからね。

 終わり方は監督の意図するところで、負けて終わりにしたくなかったとのことです。北斗の拳原作者も「見事にやってくれて、ちょっと嫉妬している」というお墨付きです。監督と相談し櫂の動く理念が数学的でなく、人らしく感情で動くようにしたことが良い人物像になりました。

 

8.評価

 ・FILMARKSは総合評価☆4。

 ・びあ映画生活は80点。

 ・COCOは満足度91%。

 ・Yahoo!☆4.16点。

 ・映画.com☆4点。

 どの映画サイトでも、評価は上々ですね。映画ランキングも初めは3位、8月6日では5位ですね。圧倒的に「天気の子」が強いわけですが…

 コメントとしては、「設計者の思いが深いです。」、「この話の顛末が良い」、「魂を揺さぶられる内容でした。」、「主人公と助手が成長していくのは面白かった」などなど良いですね。

 悪い方では、「池井戸ドラマのパクリ」、「福澤克雄が監督すれば」などなど。

 

9.もうひとつ面白い所!考察?

アルキメデスは?

 これは小説の方に描かれているのですが、子供時代に、父との計測の旅をしていると、電柱の体積を計りたいができない。父に聞くとまずは、母のネックレスを壊さずに体積を計算してごらんと言われるが一向に解けず。父が気分転換が大事なときもあると言い、銭湯へと連れていく。そこで、風呂に入ったときに、その出た水が体積になることがわかります。父が「ヘウレーカ」と言います。ここでタイトルに繋がります。

 アルキメデスは、水で出た分が体積になることを示した人物です。他にも円周率などなど。

 

・櫂直のモデルは?

 いないです。架空の存在です。しかし、櫂はカイと読みます。ギリシャ文字でのカイはXです。つまり変数ですね。この物語における変数≒変人という存在が時代を左右するという意味ではXなのかもしれません。

 櫂を示すようなことわざもあります。

「艪を押して櫂は持たれぬ。」

 1人で同時に2つのことはできないというたとえです。つまり田中がいないとダメなんです。

「艪櫂の立たぬ海もなし」

 どんなに困難なことでも、努力すればなんとかなるものだというたとえ。

 櫂の諦めない姿勢が物語っていますね。

 

10.この映画に関連している気がする!?

〇数学的視点においても面白い映画と言えます。
 難題に悩む主人公には、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」が彷彿されます。終わり方も少し似ていますね。
 愛を数学的に話す主人公は、「博士の愛した数式」をも彷彿させる。靴のサイズは24、実に潔い数字だ。
 220と284は約数は互いに、284と220となる。きれいなチェーンで繋がれた友愛数だ。
 ほかにも、グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち、π、博士と彼女のセオリー、キューブ、プルーフ・オブ・マイ・ライフ、奇蹟がくれた数式,ビューティフルマインド等が挙げられます。

〇しかし、戦争映画というよりはジャーナリズム精神のような、悪を裁くための探究者的映画ともいえます。
 近々で言うと「新聞記者」や「ペンタゴン・ペーパーズ」や「スポットライト/世紀のスクープ」が挙げられます。

 

11.終わりに。

 戦争を経験し教えてくれる人はどんどんいなくなります。今若い人たちが少しでも知っておかないと、同じ過ちを生む可能性はあります。この作品は、ほぼエンタメ性抜群で、当時の悲惨さという面では弱いと言えますが、戦争を考えるには良い導入です。一度、劇場で見る価値は、人生経験において十分にあると思えた作品でした。